中国での特許訴訟の現状や事例と専理法改正の特許訴訟への影響

 現状の中国の特許法(専利法)の施行は、驚くべきことに1985年であり、歴史としては日が浅いとも言えます。しかしながら、GDPが世界第2位となり、経済大国となった中国は、人口も多く、大きなマーケットがあり、ビジネスチャンスがあるため、特許出願件数も年々増加の一途を辿っています。また、特許出願件数の増加に伴い、中国での特許訴訟の件数も増加しています。その中には、日本企業の絡む訴訟もあります。

 さらに、中国専利法が改正され、2021年6月1日より施行されました。改正項目の中には、特許訴訟に関するものもあります。改正の結果、特許活用がますます活発になることが予想されます。 この記事では、中国での特許訴訟の現状や専理法の改正について(特許訴訟に関するものを中心に)をご紹介します。  

もくじ

1. 中国での特許訴訟の現状

2. 日本企業が絡む訴訟事件

3. 専理法の改正について

4. まとめ 

1.中国での特許訴訟の現状

 中国最高人民法院から出された「中国法院知的財産司法保護状況(2019年)」に記載された統計によると、中国での知財訴訟の件数は、毎年40%の割合で増えているそうです。

 2018と2019年と間で、特許関連(中国では、特許、実用新案及び意匠を含め「専利」と言います)の訴訟件数の増加量は、約2.6%であり、商標(約25%)や著作権(約50%)に比べると落ち着いているものの、確実に増えていっています。以下に、2010年から2019年までの中国特許訴訟(特許民事訴訟一審事件)の件数の推移を示します。 

中国特許訴訟

  詳しくは後段で紹介しますが、2021年6月1日に施行された改正専利法では故意の特許権侵害の場合の最大5倍賠償や立証負担の緩和化などの影響で、権利の活用がますます活発になり、その結果特許訴訟は更に増えていくものと思われます。

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2.日本企業が絡む訴訟事件

 特許訴訟では、主に、権利侵害を訴える側と権利侵害を訴えられる側とが存在します。中国でビジネスをする企業は権利侵害を訴えられる側にもなり得ますし、中国で専利権を取得した企業は権利侵害を訴える側にもなり得ます。ここでは、日本企業が権利侵害を訴えた事件及び権利侵害を訴えられた事件をそれぞれ紹介します。

(1)ブリヂストン社のタイヤに関する特許侵害訴訟
 日本の有名タイヤメーカーであるブリヂストンは、2017年9月に、自社が特許権を持つトラック用タイヤのトレッドパタン(タイヤが路面と直接接する部分に刻まれている溝の模様)を使用してタイヤを製造・販売したVheal社の行為は特許権侵害に該当するとして、北京知識産権法院に提訴しました。その結果、2020年6月にVheal社に対して、侵害行為の中止及び損害賠償金50万元(約800万円)の支払いを命じる判決が下され、10月に本判決が確定しました。

 ブリヂストン社は、同様の訴訟を、Fangxing社に対も行って勝訴を得ています。こちらの損害賠償額は、62万元(約980万円)となっています。また、ブリヂストン社は、タイヤに関するその他の訴訟についても勝訴を得ています。

 この結果は、中国において有力な知的財産権を取得しておけば、日本企業であっても十分に勝訴に持ち込める、ということを実証していると思われます。

(2)富士化水工業が関わった訴訟
 一昔前の訴訟ですが、損害賠償額が約7億6000万円と非常に高額な賠償を求められた事件であったため、ここで紹介します。

 この事件は、概して述べると、中国企業である武漢晶源環境工程有限公司が、華陽電業有限公司及び日本富士化水工業株式会社を特許権侵害で提訴した事件です。

 問題となったのは、武漢晶源環境工程有限公司が所有する曝気法海水煙気脱硫方法及び曝気装置でした。 富士化水工業株式会社は華陽電業有限公司に脱硫装置の技術提供をしていました。最終的には、最高人民法院は、原告である武漢晶源環境工程有限公司の主張を認め。富士化水と華陽電業とが共同で5061.24万元(約7億6000万円)を原告に支払うよう命じる判決を出しました。

 このように、中国企業に技術提供をしていた場合であっても、多額の損害賠償額を請求されることがあります。そのため、中国への事業進出の際は、どのような形であっても侵害防止のための特許調査が非常に重要であることがわかります。 

中国特許訴訟

   

3.専理法の改正について



 2021年6月1日より、改正された中国専利法が施行されました。この改正では、訴訟に関して主に以下の改正がなされました。

●第 68 条 専利を詐称した場合、法により民事責任を負うほか、専利の法執行を担当する部門は是正命令を下してこれを公告するとともに、不法所得を没収し、不法所得の5倍以下の過料を併科することができる。不法所得がなく又は不法所得が5万元以下である場合は、25万元以下の過料を科すことができる。犯罪を構成する場合は法により刑事責任を追及する。

 専利(特許)の詐称とは、特許権が付与されていないのに特許製品であると偽ったり、特許証を偽造したりする行為などです。元は「不法所得の4倍以下」であったものが「不法所得の5倍以下」に改正となりました。

●第 69 条 専利の法執行を担当する部門は、既に取得した証拠に基づいて、専利仮冒の疑いのある行為を取り締まるときは、下記の措置を行う権限を有する。

(一)関連する当事者を尋問し、違法被疑行為に関連する状況を調査すること
(二)当事者が違法被疑行為を行った場所に対して現場検査すること
(三)違法被疑行為に関連する契約書、領収書、帳簿及びその他の関連資料を閲覧、複製すること
(四)違法被疑行為に関連する製品を検査すること
(五)証拠により専利詐称であると証明できる製品を差し押さえ又は留置すること

専利業務を管理する部門が専利権者又は利害関係人の請求に応じて専利侵害紛争を処理するときは前項第 (一)号、第(二)号、第(四)号に記載する措置を採ることができる。

 専利業務を管理する部門、専利の法執行を担当する部門が法により前二項に規定する職権を行使するときは、当事者はこれに協調、協力するものとし、拒絶、妨害してはならない。

 69条では、特許権の法執行を担当する行政機関の権限が明確に規定されています。

●第71条1項 専利権を侵害する賠償金額は、権利者が侵害によって被った実際の損失又は侵害者が侵害により得た利益に基づいて確定することができる。権利者の損失又は侵害者が獲得した利益の確定が難しいときは、専利許諾実施料の倍数を参照して合理的に確定する。故意に専利権を侵害し、状況が深刻である場合は、上記方法により確定された金額の1倍以上5倍以下により賠償金額を確定することができる。

 71条では、故意の侵害に対して、最大 5 倍の賠償を認めたものです。米国をはじめとする懲罰的損害賠償制度を有する主要国家では3倍賠償が主流ですので、5倍賠償としているのは注目すべきであると思われます。

●第71条2項 権利者の損失、侵害者が獲得した利益及び専利許諾実施料のいずれも確定できない場合は、人民法院は専利権の類型、侵害行為の性質及び状況などの要素に基づき、3万元以上500万元以下の賠償を確定することができる。
 賠償金額には、さらに権利者が専利権侵害行為を阻止するために支払った合理的な出費を含めなければならない。

 損害賠償は専利権者の損失、侵害者の利益、実施許諾料などの算定方法があるものの、実務上はいずれも確定できないことが多いという現実があります。改正前は、裁判所の裁量により1万元以上100万元以下の賠償額を確定できましが、それでは十分な保護を図れないということから、裁判所の裁量の範囲が3万元以上500万元以下まで引き上げられました。

●第72条4項 権利者が既に立証に力を尽くしたにもかかわらず、専利権侵害行為に係る帳簿、資料が主に侵害者により把握されているときは、人民法院は賠償金額を確定するために、侵害者に対して専利権侵害行為にかかる当該帳簿、資料の提供を命じることができる。侵害者が提供せず又は虚偽の帳簿、資料を提供した場合は、人民法院は、権利者の主張及び提供した証拠を参照して賠償金額を判断することができる。

 侵害訴訟では、権利者による立証が難しいことが多いです。この72条第4項では、権利者による立証責任を緩和しています。

 このように、改正法では、特許権者による権利活用が正当に使用できる方向に改正が為されているようです。 




4.まとめ


 このように、中国での特許権侵害訴訟の件数は増加しています。そして、今回の法改正により、特許権者による権利活用が正当に使用できる方向に向かっているように思われます。そのため、一方の側面では、中国で強い権利を取得すれば、それだけ権利行使がしやすくなったと言えると思います。しかし、別の側面では、他社からの侵害訴訟を受ける可能性も高まっている、ということもできます。したがって、中国では、出願戦略だけでなく自社技術が他社権利を侵害するか否かの特許調査も非常に重要であると思われます。

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