中国の商業宇宙開発スタートアップ企業の特許出願状況と特許紹介

もくじ

Ⅰ. 中国の商業宇宙開発

Ⅱ. 中国商業宇宙開発スタートアップ企業注目の9社

Ⅲ. 各社の特許出願状況

Ⅳ. 中国の商業宇宙開発スタートアップの今後の課題

Ⅴ. まとめ

Ⅰ. 中国の商業宇宙開発


  最近まで中国の宇宙活動は、中国航天科工集团(CASIC)と中国航天科技集团有限公司(CASC)という2つの国有企業に圧倒的に支配されており、国内での操業を許可されていたのは一部の民間宇宙企業だけでした。例えば、1980年に設立された中国长城工业集团有限公司(実質的にはCASCの子会社)は商業的な打上げを行っていますが、それ以外には中国には商業宇宙産業はほとんど存在しませんでした。衛星は製造するのも打ち上げるのもコストがかかり、サイズと重量が大きく、軌道に乗せるには大型ロケットが必要です。また、そのコストは国家予算でなければ対応できないほどのものでした。

  しかし、この10年間で衛星の製造やロケットの打ち上げにかかる費用が大幅に低下したことで状況は一変しました。中国政府は2014年、AIや太陽光発電などと同様に、民間宇宙開発をイノベーションの重要分野として扱うことを決定し、宇宙産業への参加に関心を持つ企業への大規模な民間投資を可能にしました。

  このように政府が宇宙分野を民間資本に開放したことをきっかけに、2014年以降中国では商業宇宙開発企業が爆発的に増加しました。中国の出版物『商业航天产业投资报告』によると、2018年末までに中国では、打ち上げ、推進、衛星製造、ペイロード、応用、地上局などの分野で141社の商業宇宙開発企業が登録されているとのことです。そして、これらの宇宙開発企業に対する投資家の熱意は高まり続けています。

  中国のデータプラットフォーム「天眼查」によると、2020年には中国の商業航空宇宙分野に9億3,300万ドル(60億中国元)の投資が行われ、2019年の2億9,600万ドルの3倍以上となりました。商業宇宙開発企業としては、前述したように141社が登録されていますが、国防分析研究所が2019年に発表したレポートによると、現在中国で活動している商業宇宙開発企業は78となっています。そしてこの半分以上が2014年以降に設立されたものとうことです。

  本記事では、これらの新しい商業宇宙開発企業のうち世界ニュースで注目されていた中国の商業宇宙開発スタートアップ企業をランダムに9社選び、これらのスタートアップがどのような特許出願を行っているのかを調べました。 

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Ⅱ. 中国商業宇宙開発スタートアップ企業注目の9社


1. 北京星际荣耀空间科技股份有限公司 iSpace
2. 长光卫星技术有限公司 Chang Guang Satellite Technology
3. 长沙天仪空间科技研究院有限公司 Spacety
4. 银河航天(北京)通信技术有限公司 GalaxySpace
5. 蓝箭航天技术有限公司 Landspace
6. 星河动力(北京)空间科技有限公司 Galactic Energy
7. 北京九天微星科技发展有限公司 Commsat
8. 北京微纳星空科技有限公司 MinoSpace
9. 北京翎客航天科技有限公司 LinkSpace   

spacex

Ⅲ. 各社の特許出願状況


  各社の特許出願状況を中国特許庁が提供する特許データベースPSS-Systemで調査しました。9社の特許出願件数、特許登録件数を以下に記載します。そのうち出願件数が多かった3社について最近登録された特許を1つずつ紹介します。

1. 北京星际荣耀空间科技股份有限公司 iSpace


1.1. 北京星际荣耀空间科技は2016年に設立され、商業衛星打ち上げロケットおよび、その関連ソリューション全般の研究開発を行っており、国内外の衛星メーカーや運営会社、大学、科学研究機関を顧客に持っています。同社は地球低軌道に衛星を打ち上げた中国初の民間企業です。2019年7月には酒泉卫星发射中心からHyperbola-1ロケットを打ち上げました。その後、液体酸素・メタンユニットのHyperbola-2ロケットを開発しています。

1.2. 特許出願状況:公開326件、登録49件

1.3. 登録特許紹介:CN112722336B
「一种连接器和低温火箭系统」(コネクタおよび極低温ロケットシステム)
Google Patent(全文)https://patents.google.com/patent/CN112722336B/zh?oq=CN112722336B


  極低温ロケットでは、極低温推進剤を充填して必要なガスを供給し、ロケットの打ち上げ前にそのコネクタを切り離します。従来技術では、極低温燃料補給用コネクタは空気圧爪式接続を採用しており、ガスと液体は異なるコネクタを介して、ロケット本体と燃料・ガス供給システムとの間で供給されます。しかしこの方法では、コネクタの数が増えて構造が複雑になり、打ち上げ時のコネクタ切り離しの信頼性を低下させています。こうした課題を解決するために、本発明の構成では、複数のガス通路と液体通路をモジュール化して単一のコネクタ上に接続して一体に配置しました。これによりコネクタの数を減らし、ガス通路と液体通路の同時接続と同時分離を実現し、コネクタ切り離しの信頼性を向上させました。 

iSpace patent

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2. 长光卫星技术有限公司 Chang Guang Satellite Technology


2.1. 長光衛星技術は、中国初の商業用リモートセンシング衛星会社です。同社は主にHQ光学式リモートセンシング衛星の設計、製造、運用を行っています。2015年10月7日、中国初の自社開発の商用HQリモートセンシング衛星「吉林1号光学A」の設計を公開し、中国の酒泉卫星发射中心での打ち上げに成功しました。この打ち上げは、一般的に中国の商業宇宙産業のスタート地点とされています。

2.2. 特許出願状況:公開417件、登録76件

2.3. 登録特許紹介:CN111076675B
「凹球面平面波前零位补偿检光路快速调节方法」(凹球面状の平面波面ゼロポジション補正検出光路の高速調整方法)
Google Patent(全文)https://patents.google.com/patent/CN111076675B/zh?oq=CN111076675B

  現在広く利用されているゼロポジション補正検出の基本原理では、光ビームはコリメーションから検査対象のミラーで反射され、元の光路に沿って戻ってきます。扁平球状の光学面を検出するための球面波面補償検出光路には実像点があります。光路上の実像点の位置は、干渉計からの出射光の収束点と、検出対象のミラーからの反射光の収束点の両方になります。そのため実像点に小口径の絞りを設定し、反射像点と出射像点のずれに基づいて検出対象のミラーの空間的位置を調整することができます。しかし、球面波面の補償器は干渉計の光軸の位置に敏感で、正面からの検出結果に影響を与えないように正確に調整する必要があります。光学補正器の波面を平面的に設計することで、補正器と干渉計の位置関係が敏感でなくなり、補正器の調整誤差の影響が少なくなります。しかし、この干渉計検出光路には、テストビームの実像点が存在しないため、検出対象となる反射鏡の空間的な位置を調整することが困難になります。本発明では、光学原理を基礎として検出光路を迅速に調整する方法と装置を提案しました。これにより検出効率を高め、光学部品加工の円滑な開発を保証します。 

Chang Guang Satellite patent

3. 长沙天仪空间科技研究院有限公司 Spacet


3.1. 2016年に設立された长沙天仪空间科技研究院は、衛星の設計、構築、打ち上げ、運用を行っています。低コスト、高性能、高信頼性を備え、大量生産が可能な一連のキューブサットや小型製品を開発しています。またSatellites-as-a-Service(SataaS)の提供を通じて、科学、技術のデモンストレーション、および商用サービスを高速、柔軟な多数の宇宙飛行でサポートしています。2020年12月には、2Dのレーダー画像を使って地上の風景を3Dで再構築する小型衛星を打ち上げました。その数週間後には、この衛星が撮影した3mの解像度を持つ最初の画像「Hisea-1」を公開しました。

3.2. 特許出願状況:公開162件、登録39件

3.3. 登録特許紹介:CN111293765B
「一种卫星电源系统及其配置方法」(衛星電源システムおよびその構成方法)
Google Patent(全文)https://patents.google.com/patent/CN111293765B/zh?oq=CN111293765B

  現在、衛星の大部分は太陽エネルギーを使用していますが、太陽光発電用途では間欠性のエネルギーが使用され、多くの場合、電力貯蔵システムを付随させる必要があります。既存の衛星用電力貯蔵システムは、一般的にリチウム電池(Li-ion)を使用しており、エネルギー密度は最大150Wh/kgですが、電力密度は75W/kg以下です。衛星の軌道上での運用寿命を延ばすためには、一般的に電池の放電深度は20%以下であることが求められます。軌道上では消費電力の大きい負荷の適用が一般的になっています。設計要件を満たすために電池の数を増やすと、システムの重量や体積が増加し、システムの性能を効果的に向上させることができなくなり、マイクロナノサテライトへの適用は制限されてしまいます。本発明は、スーパーキャパシタの充電中に取得した参照パラメータによってスーパーキャパシタの放電時間を予測し、放電時間の長さに基づいて複数のスーパーキャパシタを順に切断することで、スーパーキャパシタの過放電や繰り返しの充電を回避し、衛星電力システムの寿命を向上させています。 

Spacety patent

上記3社以外の6社については、簡単な企業紹介と特許出願状況のみを記載します。

launch rocket

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4. 银河航天(北京)通信技术有限公司 GalaxySpace

4.1. 2016年に設立された银河航天(北京)通信技术は、低コストの小型通信衛星の開発とグローバルな高速衛星インターネットの確立に注力しています。2020年1月、同社は中国にサービスを提供する最初の24Gbpsブロードバンドインターネット低軌道(LEO)衛星を打ち上げました。この衛星は、国内の民間企業が独自に開発した初のブロードバンドインターネット衛星でした。同社は産業チェーンのカバー範囲を拡大に注力していることから、産業チェーン全体をカバーする最初の企業になる可能性があります。

4.2. 特許出願状況:公開20件、登録4件 

5. 蓝箭航天技术有限公司 Landspace

5.1. 蓝箭航天技术は、2015年に設立された中国の宇宙打ち上げ分野のパイオニアの1つです。2020年8月末までに、SkyLarkの80tレベル(TQ-12)と10tレベル(TQ-12)の低温メタンと液体酸素のロケットエンジンのジンバルホットファイアテストを完了しました。同社は、液体酸素メタンロケット「朱雀2号」を2021年に打ち上げることを発表しています。これは、中国の商業宇宙産業における低コストでの打ち上げのための鍵となるかもしれません。

5.2. 特許出願公開103件、登録13件 

6. 星河动力(北京)空间科技有限公司 Galactic Energy

6.1. 星河动力(北京)空间科技は、軌道上での打ち上げを試みた中国で4番目の民間企業です。現在のところ、同社はライトリフト固体ロケットしか製造していませんが、蓝箭航天技术や北京星际荣耀空间科技に続き、液体燃料ロケットへの移行を進めています。同社のPallas-1ケロシンランチャーと液体酸素ランチャーは、2022年後半に最初のテスト飛行を行う予定です。

6.2. 特許出願状況:公開91件、登録7件 

7. 北京九天微星科技发展有限公司 Commsat

7.1. 北京九天微星科技は2015年に設立され、商業衛星のカスタマイズ、コンステレーションコアサービス、産業用ターミナルアプリケーション、宇宙技術教育を主に行っています。2018年に計8機の衛星を2回打ち上げ、すべての衛星の運用に成功しました。また民間企業として初めて100kg級衛星の自主開発と軌道上での検証を実現しました。国家の新しい衛星インターネットインフラに深く関わっている、小型衛星産業のチェーンサービスを提供しています。

7.2. 特許出願状況:公開23件、登録4件 

8. 北京微纳星空科技有限公司 MinoSpace

8.1. 北京微纳星空科技は2017年に設立されました。マイクロ・ナノ衛星システムの研究開発と製造サービスを主な業務としています。マイクロ・ナノ衛星のプラットフォームとコア・コンポーネントの独自開発、衛星全体の設計・統合とそのテスト、電子通信や光学ペイロードなどの衛星システムの開発などを行っています。同社は、防衛、産業、地域のユーザーに対して、衛星資源をベースとした統合情報システムソリューションを提供しています。

8.2.特許出願状況:公開32件、登録2件 

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9. 北京翎客航天科技有限公司 LinkSpace  

9.1.北京翎客航天科技は2014年1月に設立され、ロケットのVTVLと再利用技術に注力し、信頼性が高く低コストの打ち上げサービスを提供することを目指しています。飛行制御アルゴリズムや可変推力液体ロケットエンジンなどの固化技術を含む、完全な再使用型ロケットのエンジニアリング能力を持っています。最初の製品であるSRV-1(サブオービタル再使用型ロケット)は2020年第3四半期に打ち上げられ、NEWLINE-1(オービタル再使用型ロケット)は2021年第4四半期に打ち上げられる予定です。

9.2. 特許出願状況:公開1件、登録0件 

Ⅳ. 中国の商業宇宙開発スタートアップの今後の課題

  これらの新しい企業はまだ利益を出しておらず、利益を出すまでにはかなりの時間がかかるか、あるいはこうした企業の多くが廃業すると考えている専門家もいます。SpaceX社やBlue Origin社のような米国企業は、億万長者の創業者が資金を投じて大きなリスクを負い、大きな失敗を乗り越えてようやく軌道に乗りました。昨年、中国の億万長者がこの業界に参入しましたが、米国企業と同じようにリスクへの意欲を持てるかどうかは不明です。

  また中国は主要な宇宙開発国の中で唯一、専門的な宇宙法を持たない国です。自由な企業活動がイノベーションを生み出すことが期待されていますが、民間企業が宇宙活動を行う場合には各国政府が責任を負うことになります。そのためには、政府が自分たちの契約内容を確実に把握できるように、ミッションを許可・承認する必要があります。

  こうした課題はあるものの、中国の宇宙産業は着実に成長しています。新しいスタートアップ企業は、アメリカのビジネス手法を採用しただけでなく、ビジネス関係を構築して成長する方法として、アメリカのスタートアップ文化を受け入れ始めています。「イノベーションとは、新しいテクノロジーを意味するだけでなく、新しいビジネスの手法も意味する」と长沙天仪空间科技研究院CEO、鄭氏は述べています。 

Ⅴ. まとめ

  IPOMOEAでは、より詳細な情報をお届けできるほか、各種ニーズに応じた中国特許調査サービスをご提供できます。お気軽にご相談ください。

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