特許権侵害における均等論とは?|
米国、中国の均等論についても説明

 特許発明の技術的範囲、すなわち権利範囲は、原則として願書に添付した「特許請求の範囲」の記載に基づいて確定されます。 特許権侵害の判断においてこの原則を厳格に適用すると、発明の本質とは関係のない些細な変更によって権利範囲から逃れることができてしまいます。このような状況は、発明を保護するという特許法の法目的から外れることになってしまいます。そのため、文言上では「特許請求の範囲」の中に入らない場合であっても、後述の5つの要件を満たせば侵害が疑われる製品は特許発明と均等である、すなわち均等論が適用できると判断された判例があり、それ以後、この判例に準拠した判例が続いています。

 この記事では、このような「均等論」について紹介します。 

もくじ

1. 均等論とは

2. 日本での定義

3. 米国での均等論

4. 中国での均等論

5. まとめ 

1.均等論とは


  均等論(doctrine of equivalents)とは、特許法において一定の要件のもとで特許発明の技術的範囲(特許権の効力が及ぶ範囲)を拡張することを認める理論です。別の言い方をすると、侵害が疑われる製品が特許発明と同じでなくても、均等と評価できる場合には特許権の効力が及ぶとする考え方です。

  どの国でも、特許法に明記されているものではなく、判例によって認められています。 

均等論

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2.  日本での定義

 日本の司法は、成文化し、制定した成文法を第一義的な法源とする考え方(成文主義)であり、「特許発明の技術的な範囲は、特許請求の範囲に基づいて定めなければならない。」という特許法第70条第1項に従って均等論の適用に消極的でした。しかし、国際的な動向もあって、少しずつ均等論が認められる方向に変わっていきました。特に、1998年のボールスプライン事件の最高裁判決(最高裁平成10年2月24日第三小法廷判決)では、概して、特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存在する場合であっても、特定の要件を満たす場合には均等論が認められる、との判示が出ました。以後、この判決を踏襲した判決が多数繰り返されており、均等論は解釈として確立していると言えます。

(1)ボールスプライン事件
 この事件について簡単に述べると、侵害が疑われる製品(以下、被告製品)が特許発明の「特許請求の範囲」に記載された構成中と異なる部分がある場合であっても、侵害となるか非侵害となるかが争われたものです。

 特許権者は、「無限摺動用ボールスプライン軸受」という発明の特許(特許第999139号(特公昭53-22208号))を取得していました。被告は、この発明に似た製品を製造及び販売していました。地裁は、被告製品は、本件特許の技術的範囲に属さない、すなわち侵害ではないと判断しました。この判決を受け、特許権者は控訴し、高裁で争われました。

 高裁での判決は、ズバリ同一ではないと判断されたものの、一部の異なる構造については、
・構造が一部異なるからといって、これによって特別な効果を奏するものでもない。
・その相違点は本件特許の出願時の技術水準からみれば、置換が可能であるとともに置換が容易である。
・そうであれば例外として被告の製品は、本件特許の技術的範囲に属するものとして侵害と判断するのが相当というべき。
・そのように解さないと公開の代償として付与された特許権が容易に無意味なものとなってしまい、特許制度の趣旨に反することになってしまう。
と判断され、侵害であるとの判決が出されました。

(2)最高裁-均等論の5大要件の整理
 この判決を受け、被告側が控訴し、最高裁で争われました。

 そこではまず、原則として、発明の技術的範囲は明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて確定され、特許請求の範囲の記載の文言に含まれないものは、特許発明の技術的範囲に含まれないと明言されました。つまり、原則としては特許請求の範囲に記載された構成と異なる部分がある対象製品は、特許発明の技術的範囲に含まれないというものです。

 一方で、特許請求の範囲に記載されたものと異なる部分があった場合でも、以下の5つの要件を満たす場合には、均等論が認められる、と判断されました。

[1]相違部分が特許発明の本質的部分ではないこと。
[2]相違部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達成することができ、同一の作用効果を奏すること。
[3]相違部分を対象製品等におけるものと置き換えることが、対象製品等の製造等の時点において容易に想到できたこと。
[4]対象製品等が、特許発明の出願時における公知技術と同一、または公知技術から容易に推考できたものではないこと。
[5]対象製品等が特許発明の出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情がないこと。

 第1要件〜第3要件は積極要件と呼ばれ、証明責任は特許権者側にあるとされています。一方、第4及び第5要件は消極要件と呼ばれ、証明責任は侵害を疑われている側にあるとされています。

(3)事件の結末
 最高裁での争いでは、特許権者側が上記第3要件を証明するために、被告製品が本件の出願時に当業者が公知の技術の組み合わせたものに過ぎないと日独米の過去の公報を提出しました。その結果、最高裁では、被告製品は本願の出願時に当業者が容易に発明をすることができたものであり、そうなると本願発明は進歩性がないためにそもそも特許を受けることができる発明ではないことになるから、それであれば被告製品は特許発明の技術的範囲に含まれないと判断されました。

 そして、本件は、置換可能性、置換容易性等の均等のその余の要件についての判断の当否を検討するまでもなく、特許法の解釈適用を誤ったものというほかはないとされ、原判決に影響を与えるものであり、前に判示した点について更に審理を尽くさせる必要があるので、これを原審に差し戻すこととすると判示されました。つまり最高裁判決は、特許権者側勝訴の原審が破棄されて高裁に差し戻されたものであり、特許権者側の負けと言えるものです。

 その後、特許権者側は交際への控訴を取りやめたとのことです。つまりこの事件では、均等論は認める方向となりましたが、特許権者は勝つことができなかったという結末を迎えたのでした。

(4)その後
 この判決以後日本では、上記5大要件を満たすか否かで均等論が適用できるかが判断されています。
 

均等論  ボールスプライン

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3.  米国における均等論

 アメリカ合衆国においては、均等論は日本よりも遙かに早く1853年に合衆国最高裁判所によって導入されています(最高裁判決Winans v. Denmend 事件)。そして、その約百年後の1950年のグレーバー・タンク事件の最高裁判決で復活したとされ、その後、ヒルトン・デービス事件連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)判決(1995年)、ワーナー・ジェンキンソン事件最高裁判決(1997年)、フェスト事件最高裁判決(2002年)など、均等論に関する重要な判例が出されています。

 米国の裁判所では、均等論を適用するかどうかのテスト(a)「機能・方法・結果テスト」(“Function-Way-Result”(FWR)test)又は(b)「些細な相違テスト」(“Insubstantial Differences” test)を行い、均等論を適用すべきかを判断します。陪審は裁判官が選択したテストを適用し、特許の具体的内容、先行技術等を考慮して均等物を判断します。米国では、陪審員が均等物を判断するため、均等論に基づくクレーム解釈、陪審裁判の行き着くところは不確実性が高いと言われています。なお、近年、米国における均等論に基づく判決の件数は減少の一途を辿っています。 

4.中国における均等論

  中国では、均等論は専利法に明確に規定されていませんが、2001年に中国最高人民法院より公布された「専利紛争案件審理の法律適用問題に関する若干規定」(以下「司法解釈」と略す)において規定されています。司法解釈の第17条には、「専利権の保護範囲は専利請求の範囲に明確に記載されている技術的特徴により規定された範囲を基準とし、専利請求の範囲に記載されている技術的特徴と均等な技術的特徴により限定された範囲をも含む」と、均等論の適用根拠が明確化されています。

 基本的な適用規則を以下に示します。
・「3つの基本的に同一と易に想到」という基準
 司法解釈の第17条において、「基本的に同一の手段、機能および効果と当業者が容易に想到」という均等性の判断基準が明文化されています。

 一つの事例において最高人民法院は、「被疑侵害品の技術的特徴と専利の技術的特徴が均等であるかどうかを判断する際には、被疑侵害品の技術的特徴が当業者にとって容易に想到できるものであるかだけでなく、被疑侵害品の技術的特徴が専利の技術的特徴と比べ基本的に同一の手段を採用し、基本的に同一の機能を実現し、かつ基本的に同一の効果を奏しているかをも考慮しなければならない」と論じました。そして、上記すべての条件が満たされた場合に限り、両者が均等な技術的特徴に該当すると認定されます。

・均等性の判断の基準時は侵害発生時
 中国における均等論の判断は、侵害発生時であることが明記されています。

・オールエレメントルール
 中国では、侵害性の判断においてはオールエレメントルールが採用されているので、均等論を適用する際にも、均等性の判断対象は技術全体ではなく、その技術を構成する技術的特徴となります。 


(参考文献)
http://www.ypat.gr.jp/ja/case/patent/04.html
http://www.harakenzo.com/jpn/gaikoku_siryo/us/20210426_1.pdf
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/13604/
http://www.kjpaa.jp/qa/46359.html 

5.まとめ

 このように、均等論は世界各国で利用されていますが、適用条件が異なります。日本でいうと、ポールスプライン事件のように、均等論を適用するための証拠提出が、自分の首を締めてしまうという、諸刃の剣にもなり得ます。そのため、均等論を持ち出す場合には、十分な理解が必要です。

 IPOMOEAは、均等論を含め、それぞれの国での判例を研究している事務所とコンタクトを取ることができます。均等論についてより詳細にお知りになりたい場合には、お気軽にご連絡ください。

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