拡大先願による拒絶理由通知とその対処方法について実践的に解説

もくじ

1. 本願出願時に未公開であった先願とは?

2. 日本−特許法第29条の2 拡大先願

3. 欧州−自己衝突(セルフコリジョン)

4. 中国−抵触出願

5. 米国−第102条(a)(2)

6. まとめ 

 特許権は「先願主義」に基づいています。先願主義とは、同じ発明について複数の特許出願がされた場合には、一番早く特許出願した出願人に特許権を付与しようという考え方です。つまり、最初に発明した者ではなく最初に特許出願した出願人に特許権が付与されます。

 先願主義は、先願の特許出願と自己の特許出願(以下「本願」という)の特許出願の特許請求の範囲に記載された発明を比較し、両者に一致があれば本願を排除するための規定です。これに対して、「拡大先願」という制度があります。拡大先願とは、先願の特許請求の範囲の記載だけでなく、明細書や図面の記載と本願の特許請求の範囲に記載された発明を比較して、両者に一致があれば、本願が拒絶される規定です。さらに、先願の出願から出願公開までの間に後願が出願され、本願の出願後に先願が公開された場合に拡大出願の規定が適用されます。

 拡大出願は、特許性に関する拒絶理由として、日本では特許法第29条の2に規定されています。いわゆる「本願出願時に未公開であった先願に基づく拒絶理由」です。この本願出願時に未公開であった先願の取り扱いは、国ごとに異なります。

 この記事では、本願出願時に未公開であった先願に基づく拒絶理由と、その対処方法について説明します。また、各国での、出願時に未公開であった先願の取り扱いについて説明します。

1. 本願出願時に未公開であった先願とは?

 日本では、特許出願日から1年6ヶ月経過後に公開がなされます。米国及び欧州でも、出願日又は優先日から1年6ヶ月経過後に公開がなされます。

 そのため、本願の出願日には、公開されていないものの本願の出願日よりも先に出願されている先願が存在します。

 このような出願が「出願時に未公開であった先願」と呼ばれています。  

拡大先願

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2. 日本−特許法第29条の2 拡大先願

 新規性及び進歩性を有しているかは、日本では、本願発明が本願出願日よりも前に公然に知られた発明、公然に実施された発明又は頒布された刊行物に記載された発明等(以下、先行発明)と同一であるか、又は当業者が先行発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるかで判断されます。

 そのため、本願出願日に公開されていない特許出願に記載された発明は先行発明とはならず、新規性及び進歩性の判断には利用されません。

 しかしながら、本願が先願の出願公開等より前に出願されていたとしても、本願に係る発明が先願の当初明細書等に記載された発明等と同一である場合には、本願が出願公開されても新しい技術を何ら公開するものではないということになります。これは、新しい発明の公開の代償として発明を保護しようとする特許制度の趣旨からみて妥当ではありません。

 そのため日本では、以下の特許法第29条の2、すなわち拡大先願の規定があります。 

【特許法第29条の2】
 特許出願に係る発明が当該特許出願の日前の他の特許出願又は実用新案登録出願であって当該特許出願後に第六十六条第三項の規定により同項各号に掲げる事項を掲載した特許公報(以下「特許掲載公報」という。)の発行若しくは出願公開又は実用新案法(昭和三十四年法律第百二十三号)第十四条第三項の規定により同項各号に掲げる事項を掲載した実用新案公報(以下「実用新案掲載公報」という。)の発行がされたものの願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面(第三十六条の二第二項の外国語書面出願にあっては、同条第一項の外国語書面)に記載された発明又は考案(その発明又は考案をした者が当該特許出願に係る発明の発明者と同一の者である場合におけるその発明又は考案を除く。)と同一であるときは、その発明については、前条第一項の規定にかかわらず、特許を受けることができない。ただし、当該特許出願の時にその出願人と当該他の特許出願又は実用新案登録出願の出願人とが同一の者であるときは、この限りでない。

 この条文は、以下の(i)から(iv)までの全てに該当する場合に、審査の対象となっている特許出願(以下「本願」という)について、特許を受けることができないことを規定しています。
(i)本願に係る発明が本願の出願の日前に出願された他の特許出願又は実用新案登録出願(「他の出願」)の出願当初の明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面(「当初明細書等」)に記載された発明又は考案(「発明等」)と同一であること。
(ii)本願の出願後に、他の出願の出願公開等がされたこと。
(iii)他の出願に係る上記の発明等をした者(「他の出願の発明者」)と、本願に係る発明の発明者とが同一でないこと。
(iv)本願の出願時において、本願の出願人と他の出願の出願人とが同一でないこと。

 言い換えると、
(A) 本願に係る発明が、他の出願の当初明細書等に記載された発明等と同一でない、
(B) 他の出願の発明者と、本願に係る発明者とが同一である、
(C) 本願の出願時において、本願の出願人と、他の出願の出願人とが同一である
の3つのいずれかを満たせば、29条の2の拒絶理由を避けることができます。

 簡単に図で示すと、以下のようになります。

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  したがって、29条の2の拒絶を受けても、上記(A)を満たすように、本願に係る発明、すなわち請求項に記載した発明を他の出願の当初明細書等に記載された発明等とは異なるように補正すれば、29条の2の拒絶を解消することができます。

[具体例]
 例えば、本願の請求項1にかかる発明が以下であったとします。
[請求項1]
 組成式Aで示される第1化合物を含む化粧料。

 一方、本願に対する先願の実施例に、たまたま上記組成物Aで表すことができる化合物Bを含んだ化粧料が記載されていたため、本願は、先願の存在により、特許法第29条の2に基づいて拒絶されました。

 この場合、どのような対応が考えられるでしょうか?

(1)ここで、本願の請求項1の組成式を先願の化合物Bを含まないように補正できれば、本願に係る発明と先願に記載された発明とが同じではなくなるため、29条の2に基づく拒絶理由は解消できる可能性があります。

(2)先願には記載されていない成分を必須とする、すなわち請求項1に記載することによっても対応できる場合があります。

[留意すべき事項]
・他の出願に記載された発明と完全に同一でない場合であっても、その相違点が微差(周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないもの)である場合は、両者は実質同一であるとして、特許法第29条の2に基づく拒絶理由を受けることとなります。

・本願の出願人と他の出願の出願人とが同一であった場合、特許法第29条の2の拒絶理由は受けません。ただし、本願に係る発明、すなわち本願の特許請求の範囲に記載された発明と他の出願に係る発明が同一である場合、2重特許の問題が生じます。 

3.欧州−自己衝突(セルフコリジョン)

 欧州では、EPC54条(3)において、本願の出願日と同日又は本願の出願後に公開された他の出願の開示内容は、先行技術となると規定されています。いわゆる自己衝突(セルフコリジョン)と呼ばれる規定です。

 この規定は日本の特許法第29条の2と違って、出願人同一、発明者同一であっても適用されるので注意が必要です。

 例えば、先に説明した化粧料の出願の場合、先願が自社の出願であっても拒絶されてしまいます。

 自社の研究報告会などで紹介した組成を悪意なく実施例や比較例として他の発明者が提案し、それが先に出願されてしまうと、その組成を含んだ一般式で表される化合物の発明に関する出願は拒絶されてしまうことになります。
 そのため、欧州に出願する可能性がある研究分野では、自社の研究報告会などでも留意が必要です。

 なお欧州の自己衝突は、本願発明と洗顔に記載された発明とが「同一」である場合に適用され、少しでも差異がある場合には適用されないこととなっています。

 また欧州では、後願の出願前に未公開だった先願は、後願の進歩性を判断する際には考慮されません。 

セルフコリジョン

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4.  中国−抵触出願

 専利法第22条第2款では、後願の出願前に未公開でその後に公開された先願は、後願の新規性阻害の引例になると規定されています。この規定は、抵触出願と呼ばれており、欧州における自己衝突と同様のものです。つまり、出願人同一であっても抵触出願となります。

 ただし、中国の抵触出願の規定は、日本と同様に「実質同一」である点で欧州の自己衝突と異なります。つまり、出願時に未公開の先願の取り扱いに関して言えば、中国の規定は日本や欧州よりも厳しいといえます。 

5.   米国−第102条(a)(2)

 米国は、現行特許法(AIA法:American Invention Act)の第102条(a)(2)で、クレーム発明が、151条(特許の発行)の規定に基づき登録された特許に記載されるか、または、122条(b)(特許出願の公開)の規定に基づき公開された出願に記載されており、当該特許または出願が、他の発明者を挙げており、かつクレーム発明の有効出願日前に有効に出願されている場合も、新規性を有さないとして拒絶される旨が規定されています。

 先願と発明者が完全に同一であれば新規性あり、一人でも発明者が異なれば新規性なしとなります。

 さらに、この規定には例外規定(第102条(b)(2)(A)~(C))があります。
・第102条(b)(2)(A):先願に開示された内容が後願発明の発明者もしくは共同発明者から直接または間接的に取得された場合には、後願は拒絶されません。
・第102条(b)(2)(B):先願に開示された内容が後願発明の発明者もしくは共同発明者、または後願発明の発明者もしくは共同発明者から直接または間接的に内容を入手した他人により公表されている場合には、後願は拒絶されません。
・第102条(b)(2)(C):先願に開示された内容と後願発明が後願の有効出願日前に、同一人により所有されていたか、または同一人に譲渡される義務があった場合には、後願は拒絶されません。

 つまり、譲受人が同一であれば新規性なしとはなりません。

 この規定は日本の拡大先願の規定に類似しています。

 一方、米国では日本と異なり、102条(a)で規定された先願も自明性を判断する先行技術となり得ます。 

6.   まとめ

 このように、日本では、他の出願人による出願時未公開の出願も特許性の判断に使用されます。欧州及び中国では、出願人が同一でも、自己衝突及び抵触出願の問題が発生します。そして、米国では、出願未公開の出願も自明性の判断に利用されます。

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