日本における発明の単一性|発明の特別な技術的特徴とシフト補正

  特許出願をするには、1件につき必ず印紙代が1万4000円かかります。また弁理士に特許出願を依頼すると、「1件あたり」の料金で費用がかかります。そのため可能であれば、1つの出願(1つの願書)で複数の発明を審査してもらうのが、費用の面で有利です。

 日本の特許法第37条では、発明の単一性を満たす一群の発明であれば、2つ以上の発明について1つの願書で出願することが規定されています。すなわち、発明の単一性の理解は、1つの出願で審査してもらえる発明数を増やすことにつながり、ひいては費用対効果を高めることにつながります。

 この記事では、日本における発明の単一性について紹介します。なお、米国及び欧州に関する発明の単一性については別の記事で紹介します。 

もくじ

1. 日本における発明の単一性に関する条文|特許法第37条

2. 特別な技術的特徴

3. 単一性の判断手法

4. シフト補正

5. まとめ 

1.日本における発明の単一性に関する条文−特許法第37条


  特許法第37条は、以下の通りです。

  二以上の発明については、経済産業省令で定める技術的関係を有することにより発明の単一性の要件を満たす一群の発明に該当するときは、一の願書で特許出願をすることができる。

 ここで「経済産業省令で定める技術的関係」は、特許法施行規則第25条の8で以下のように規定されています。

 特許法第37条の経済産業省令で定める技術的関係とは、二以上の発明が同一の又は対応する特別な技術的特徴を有していることにより、これらの発明が単一の一般的発明概念を形成するように連関している技術的関係をいう。
2 前項に規定する特別な技術的特徴とは、発明の先行技術に対する貢献を明示する技術的特徴をいう。
3 第一項に規定する技術的関係については、二以上の発明が別個の請求項に記載されているか単一の請求項に択一的な形式によって記載されているかどうかにかかわらず、その有無を判断するものとする。


 すなわち、二以上の発明が単一性を満たすには、「発明の先行技術に対する貢献を明示する技術的特徴」である「特別な技術的特徴」(Special Technical Feature:以下、STFとも言います)に関し、1つの出願の特許請求の範囲に記載された発明が、同一または対応するSTFを有している必要があります

 相互に技術的に関連した発明について1つの願書で出願できることは、先に述べたように出願人にとってメリットがあるだけではなく、第三者にとっても情報の利用などの面でメリットがあります。また、特許庁にとってもまとめて審査をすることが可能となり、審査の効率化及び迅速化が図れます。審査が迅速になれば特許にすることができる発明がより早く特許になり、それを受けて研究開発が活発となり、ひいては産業の発達につながります。

 このように、37条は出願人、第三者、特許庁に対するメリットのための規定であり、単一性を満たしていない出願が特許となっても、その出願には本来は別出願すべきだったという方式上の不備があるのみであり、実体的に不備があるわけではありません。そのため、単一性違反は拒絶理由ではあるものの、無効理由とはなっていません。 

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2.  特別な技術的特徴

 
  特別な技術的特徴(STF)は、発明の先行技術に対する貢献を明示する技術的特徴です。少し簡単に述べると、従来解決し得なかった技術課題を解決することができる特徴であって、先行技術に発見されない特徴はSTFといえます。すなわち、意見書等で新規性を有していることを主張する際に持ち出す本発明の特徴が、STFです。

 具体例を挙げます(あくまでモデルケースです)。

 [乳液の発明]
 従来、保湿とべたつき防止とをうまく両立できる乳液がなかったとします。発明者は、乳液の従来の成分Aに成分Bを所定量含ませることで、べたつきを抑えながら従来よりも優れた保湿を発揮できる乳液を発明しました。この発明を出願する前、成分Bを乳液に加えることは知られていなかった場合、「乳液の成分Aに成分Bを所定量含ませた」という特徴は、先行技術に対する技術的貢献を示す特別な技術的特徴:STFと言えます。
 

発明の単一性

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3.  単一性の判断手法

 
 審査基準に記載された単一性の具体的な判断手法を以下に簡単にまとめます。
(1)まず、特許請求の範囲の最初に記載されている発明について、STFがあるか否かを判断します。
(2)最初に記載されている発明にSTFがない場合は、最初に記載されている発明の発明特定事項を全て含む同一カテゴリーの発明がないか判断します。そのような発明がある場合は、そのような発明のうち最も請求項番号が小さい請求項の発明についてSTFの有無を判断します。
(3)上記(1)及び(2)でもSTFが見つからない場合、最後にSTFの有無を判断した発明の発明特定事項を全て含む同一のカテゴリーの発明がないか判断します、そしてそのような発明がある場合は、そのような発明のうち最も請求項番号が小さい請求項の発明についてSTFの有無を判断します。
(4)以上の手順を、STFがある発明が見つかるまで、または最後にSTFの有無を判断した発明の発明特定事項を全て含む同一のカテゴリーの発明がなくなるまで繰り返します。

 STFが見つかったら、そのSTFと同一または対応するSTFを有する発明が、審査対象となります。一方、STFが見つからなかったら、最後にSTFの有無を判断した発明が審査対象となります。ただし、上記手法で審査対象とならない場合であっても、まとめて審査することが効率的であると判断された発明については審査対象となります。

 事例を紹介します。

 [事例1]
 先程の乳液の発明に関し、以下のような特許請求の範囲で出願をしたとします。
【請求項1】成分Aと、成分B及び/又は成分Cとを含む乳液。
【請求項2】前記成分Bをb重量%含む請求項1に記載の乳液。
【請求項3】前記成分Cをc重量%含む請求項1または2に記載の乳液。

 成分A及びCを含む乳液は、本願出願時に公知であったとします。この場合、請求項1は公知技術「A+C」を含んでいるのでSTFはありません。次に請求項2を見ると、公知技術にはない成分Bをb重量%含むという技術的特徴があります。そして、この特徴を有することにより、べたつきを抑えながら保湿を達成できるという課題を解決することができます。そのため、請求項2は、STFを有しています。一方で請求項3は、成分Bを含まない発明を含んでいるので、請求項2のSTFと同一または対応する技術的特徴はありません。ただし、請求項1の審査の際に、成分Cについての公知文献の調査を行なっているので、請求項3もまとめて審査することが可能であるため、審査対象として含まれる可能性が高いです。

 [事例2]
 次に、STFを有する発明がないケースを挙げます。
 【請求項1】部材Aと、前記部材Aに結合した部材Bとを具備する運搬機。
 【請求項2】前記部材Bが前記部材Aに螺合している請求項1に記載の運搬機。
 【請求項3】前記部材Bが前記部材Bに磁力で結合している請求項1に記載の運搬機。

 部材Aと部材Bとが螺合している運搬機が、本願出願時に公知であるとします。その場合、請求項1に係る運搬機は公知ですので請求項1にSTFはありません。次に、STFの有無を判断する発明は請求項2に係る発明です。しかしながら、請求項2に係る発明も公知ですので請求項2にもSTFはありません。請求項3は、その前にSTFの有無を判断した請求項2の発明特定事項を全て含んでいないためSTFの有無の判断はなされず、厳密には審査対象になりません。ただ、まとめ審査が効率的な場合には審査される場合があります。

 この事例2の出願に係る発明は全ての請求項にSTFがないため、同一または対応するSTFがありません。そのため単一性違反の拒絶理由が通知されます。なお、一度STFを有すると判断された発明であっても審査の過程で先行技術にその特徴が見つかった場合には、事後的にSTFが否定されます。つまり、STFの判断は出願に係る発明の審査の段階ごとに判断される、というわけです。 

発明の単一性

4.シフト補正


 特許法第17条の2第4項には、特許請求の範囲の補正は特別な技術的特徴を変更するものであってはならない旨が規定されています。STFを変更する補正は「シフト補正」と呼ばれています。

 具体的には、特許法第17条の2第4項には「第一項各号に掲げる場合において特許請求の範囲について補正をするときは、その補正前に受けた拒絶理由通知において特許をすることができないものか否かについての判断が示された発明と、その補正後の特許請求の範囲に記載される事項により特定される発明とが、第37条の発明の単一性の要件を満たす一群の発明に該当するものとなるようにしなければならない。」と規定されています。STFを変更する補正が許されると、審査のやり直しとなり、審査の迅速化を阻害するからです。 先の事例2の場合、補正後の特許請求の範囲に記載される発明は、最後にSTFの有無の判断がなされた補正前の請求項2の発明特定事項を全て含んだものでなければなりません。

 シフト補正違反の拒絶理由通知を避けるための対策としては、例えば以下の案が挙げられます。
(1)請求項1に、最も重要な(特許をとりたい)カテゴリーの発明を記載する。
(2)従属項をより多くの請求項に従属させる。

 以上の方策によれば、審査時に特許を取りたい発明が審査対象になる可能性が高まるからです。

 シフト補正については、別の記事でより詳細に説明します。 

5.まとめ


 以上に説明したように、同一又は対応する特別な技術的特徴を有する一群の発明であれば1つの出願で出願をすることができ、複数の出願を行うよりも費用面で有利です。そのため、単一性を満たすように、クレームドラフティングをすることが結果的に経済的な特許ポートフォリオの作成につながります。単一性を満たすためのクレームドラフティングについては、別の記事で紹介します。

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